2016年12月9日金曜日

岐路に立つキロ (k)

SI Brochure の 接頭辞 (接頭語とも) 部分のリンクを示します。
Chapter 3: Decimal multiples and submultiples of SI units

接頭辞と単位

簡単に説明しておきますが、たとえば km (キロメートル) では、k が接頭辞、m が単位です。

単位系の意義

国際的に統一された単位系の意義は、次の一文に尽きます。

1 つの表記で誰もが同じ値を認識する

そのため、接頭辞や単位を示す大文字小文字を勝手に変えることは許されていません。段落全体を大文字で強調する場合でも、単位や接頭辞の大文字小文字は変更してはいけません。たとえば、mW (ミリワット) を MW (メガワット) に変更していいわけはありませんよね。

唯一の例外はリットルという単位で、大文字 L と小文字 l の両方を使用できます (1 と l の見間違いを防ぐために許容されているとのこと)。

キロ

よく使用される接頭辞の中で、最も混乱を引き起こしているのがキロ (k) だと思います。正の累乗を示す接頭辞は、小さいほうから、da、h、k、M、G、T、、、です。皆さんがよく目にする大文字の接頭辞 K は、SI 単位系には存在しません。単位としてはケルビンになりますが。

IT 関連では KB という表記が堂々と使用されています。一時期、大文字の K は 1024 を表すということが、まことしやかに言われていました。しかし、M や G などには使用できないルールですので、問題が生じています。

SI 単位系の接頭辞のルール

次のルールが存在します。

SI 接頭辞は常に 10 の累乗を示すものとし、2 の累乗を示すことは認められない

つまり、SI 単位系では、2 の 10 乗 (1024) を簡単に示すことはできません。ただ、2 の累乗が情報処理系で必要とされることも認識しているようで、SI Brochure では、国際電気標準会議 (IEC) が次の文書で採択した単位を推奨 (should be used) しています。

IEC 60027-2: 2005, third edition, Letter symbols to be used in electrical technology – Part 2: Telecommunications and electronics

この文書では、1024 を Ki (キビ) とする表記が定められています。つまり、1024 バイトは 1 KiB という表記になります。最近は、この単位も目にするようになってきました。

海外の論争では、KB = 1024 支持派が半導体技術協会 (JEDEC) の JESD 100B.01 を頻繁に引用していました。原典を確認してみたところ、「included only to reflect common usage」として 2 の累乗の接頭辞を記載しているだけでした。また、同文書内では、IEEE/ASTM SI 10-1997 の「2 の累乗を示す方式は頻繁に混乱を引き起こしているため非推奨」という部分を引用し、さらに IEC が定めた Ki などの単位の表を記載さえしています。つまり、K = 1024 を強く主張しているのではありません。

標準に準拠した表記

現在の各種標準への準拠度を示します。

kB = 1000 バイト (SI 準拠)
KiB = 1024 バイト (IEC 準拠、SI 推奨)
KB = 1024 バイト (JEDEC 参考記載、SI 準拠、IEC 推奨)

なんかもう、KB の完敗ですね。しかし、Windows も Mac も、ファイラーのサイズ表記に大文字で "KB"を使用しています。そして Mac では Snow Leopard 以降から 1000 バイト、Windows ではずっと 1024 バイトを表していて、もうどうしたらいいんだという状況です。ストレージを Windows に接続したときに少なく表示される原因でもありますね。Linux は kB 表記で、きちんと準拠しているようです。

各種 OS の標準への準拠度
◎ Linux
△ Mac
× Windows

大企業には、率先して標準に準拠してもらいたいものです。なお、2013 年の時点で標準に準拠して正確に記載している教科書は、数研出版 1 社のみだったそうです (外部リンク)。大企業が標準を無視し続けた結果だと感じます。

翻訳者としての処理

企業がさまざまな形で標準に違反している現状では、翻訳者が原典エラーを判別して指摘するのは困難です。身も蓋もありませんが、翻訳者は原典の単位表記に従うことをお勧めします。
  • コンピューター関連の文書では、原典の表記に合わせる。複数の表記が混在していたら申し送りに含める。
  • その他の文書でも、原典の表記に合わせる。不適切な表記 (たとえば、Km や KW)  や表記の混在などは、修正せずに「ソースエラーの可能性」として申し送りする。
「可能性」として報告するのは、とんでもない慣用が企業内や業界内に存在する可能性があるからです。

結局、以前の処理と変わらないように思います。しかし、実際のルールを知っておくことには、大きな価値があります。少なくとも、原典で正しい表記の kB が使用されているのに、わざわざ KB に修正するなどという過ち (実際に見たことがあります) は犯さないようになります。

あとがき

現在の OS 動作に従えば、Windows は KiB になり、Mac は kB になるのですが、そんな日は来るのでしょうか・・・。

私は単位の権威ではありませんので、詳しい方からみたら突っ込みどころ満載だと思いますが、少しでも翻訳関係の皆様のお役に立てれば幸いです。




2016年12月3日土曜日

数値と単位の間のスペースに関する原則

スタイル指定のない案件で、このスペースの処理が翻訳者ごとにバラついているのが気になっていました。今回は、このスペースの原則について書きます。

業界に長くいる方であれば、このスペースに関して、さまざまなスタイル指定を目にしたことがあるでしょう。たとえば、次のような指定です。

  • 数値と単位の間はすべてスペースなし
  • 数値と単位の間は原則としてスペースあり、ただし % と °の前にはスペースなし
  • etc.

でも、「単位は世界共通で使用されているのに、各社ごとにスタイルが揺れていておかしいな」と思ったことはありませんか。実際には国際機関が定めたルールがちゃんと存在します。JIS は既に、完全に国際単位系 (SI) に準拠していますから、原則として、国際単位系で定められたルールに従う必要があります。

国際単位系 (SI) の基盤を管理統括している国際度量衡局 (BIPM: Bureau international des poids et mesures) が、単位に関するさまざまなルールを定めた『SI Brochure』を発行しています。スペースに関しては、主に、以下の 2 つのセクションに記載されています。

Formatting the value of a quantity
Stating values of dimensionless quantities, or quantities of dimension one

簡単にまとめると・・・

  • 数値と単位の間には半角スペースを入れる。
  • °C (摂氏) と % (パーセント) の前にも同様に半角スペースを入れる。
  • 例外は、平面角の度 (°)、分 (')、秒 (") で、これらと数値の間にはスペースを入れない。

その他にも、細かなルールが記載されていますので、技術翻訳にかかわる方は、読んでおいたほうが良い文書だと思います (特に、表記に関するルールを定めている 5 章)。

当該 PDF のダウンロードリンクを示しておきます。

BIPM の SI 文書原典フル
BIPM の SI 文書原典コンサイス版
日本語訳フル (訳・監修 産総研 計量標準総合センター)

日本語版は最新の更新が含まれていなかったりするので、可能な限り BIPM が掲載している文書を参照することをお勧めします。

クライアントから明確な指示がある場合や、エージェントの基本スタイルガイドに異なるルールが規定されている場合は、もちろん、それに従ってください。指示がない場合や、既存訳の統一を依頼された場合は、BIPM のルールに従うことをお勧めします。過去訳がすべてスペースなしなど、判断が難しい状況下では、きちんと相談して解決してください。

次回は、同文書の「キロ」に関する記述を取り上げたいと思います。