2013年2月3日日曜日

「する」と「させる」について真剣に考えてみた


今年の私の目標は、「日本語を勉強し直す」です。

というわけで、今日は、技術翻訳でよく見られる「する」と「させる」の用法の間違いについて、真剣に考えてみました。早速ですが、次に正しい用法と間違った用法を示します。

☓ 特殊な表面処理により、対傷特性を向上しています
◯ 特殊な表面処理により、対傷特性を向上させています。
◯ 特殊な表面処理により、対傷特性が向上しています。

☓ この 2 つの特性を両立するには、薬品 A が必要です。
◯ この 2 つの特性を両立させるには、薬品 A が必要です。
◯ この 2 つの特性が両立するには、薬品 A が必要です。

品詞分解すればもっと細かくなりますが、ここでは「向上する」と「両立する」を自動詞「向上させる」と「両立させる」を他動詞として見ています。「を+自動詞 (する)」は、通常、許容されません。

これら以外にも、自動詞でありながら、技術翻訳で他動詞扱いされて誤用されるものが多くあります。

では、なぜ訳文には、このような誤用が多いのでしょうか。


原因 1: 使役形禁止令

翻訳業界では、次のようなスタイルガイドをよく目にします。

『~させる』などの使役形は使用を避けてください。

私には少し不親切に思えます。「させる」とはいったい何なんでしょう。
大辞林の定義を見てみましょう。
http://dic.yahoo.co.jp/dsearch/0/0ss/107732100000/

この定義からわかるように、使役は、数ある定義の中の 1 つでしかありません。

特に 2 番目の定義「自動性の動詞に付いて、他動性の動作のはたらきかけを強調する」に注目してください。これに相当するのが「向上させる」と「両立させる」だと私は判断します。

では、クライアントはなぜこのような記述を入れたのでしょう。私には、次の理由が思いつきます。

1. 不必要な揺れを防ぐ
 このウィンドウを表示するには、[詳細] ボタンをクリックします。
△ このウィンドウを表示させるには、[詳細] ボタンをクリックします。

「向上する」は自動詞でしたが、「表示する」はこの形で既に他動詞です。その他動詞に「させる」を付けるのは、不要な揺れの原因になります。ところで、これを使役形と言っていいかどうかは疑問です。

2. 礼を失する使役形を防ぐ
☓ 管理者に、ポートを解放させます。
 管理者に、ポートの解放を依頼します。

これらだけなら良いのですが、自分の訳文から「させる」をすべて取り除こうとする翻訳者 (時には編集者) が存在します。使役形禁止だからといって、「させる」をすべて取り除こうとするのは、不適切だと考えます。

「する」「させる」は、前にくる単語によって性質が異なることに注意しておけば、あまり悩まなくてすみます。


原因 2: 定型文指定

次のような記述がスタイルガイドに含まれていることがあります。

「To do ~, do ~」は、「~するには、~してください」の形式で訳してください。

このようなスタイル指定があった場合に、次のような間違いが多く見られます。

To improve the quality of service, you...
☓ サービス品質を向上するには・・・

さて、困りましたね。「させる」を使用して、例外としてクエリに含めればいいのですが・・・説明も面倒ですよね。このような場合、私は同義の他動詞を探します。

 サービス品質を改善するには・・・

はい、これでスタイルガイドの大雑把な要求にも、日本語文法にも従うことができます。


まとめ

Google で「を向上する」を検索してみれば分かりますが、8 割ぐらいが IT 系の企業です。一部のビジネス誌でも誤用がみられます。

Google
英辞郎 (16件)
(英辞郎の中の誤用は、ほぼすべて外部からの引用に含まれる誤用です。正しい用法である「を向上させる」も検索してみれば、ALC さん自体は正しい用法を理解していることがわかります)

とはいっても、これだけ大々的に誤用されているのであれば、何十年後かには「この用法は許容される」とか書かれちゃうんでしょうか。

あっ、私は文法の専門家ではないので、お手柔らかに。