2017年5月12日金曜日

常用漢字表の趣旨について

記事の目的

常用外漢字を排除したために、読みにくくなっている文書をときどき見かけます。常用漢字表についての誤解があるようですので、記事を 1 本書いておこうと思いました。

政府の公用文なら、まぁ、常用外の漢字や用法を厳しく制限してよいでしょう。ただし、一般企業の場合は、この表に基づきながらも、「業界の常用」を考慮して賢明な判断を下す必要があると考えます。

常用漢字表の趣旨

常用漢字表の「前書き」にある 5 項目をよく読んでいただければ、この表の趣旨がわかると思います。いや、読まないだろうから引用しておきます (笑)。強調したい部分をハイライトしていますが、全部読んでくださいね。

===引用開始===
  1. この表は,法令,公⽤⽂書,新聞,雑誌,放送など,⼀般の社会⽣活において,現代の国語を書き表す場合の漢字使⽤の⽬安を⽰すものである。
  2. この表は,科学,技術,芸術その他の各種専⾨分野や個々⼈の表記にまで及ぼそうとするものではない。ただし,専⾨分野の語であっても,⼀般の社会⽣活と密接に関連する語の表記については,この表を参考とすることが望ましい
  3. この表は,都道府県名に⽤いる漢字及びそれに準じる漢字を除き,固有名詞を対象とするものではない。
  4. この表は,過去の著作や⽂書における漢字使⽤を否定するものではない。
  5. この表の運⽤に当たっては,個々の事情に応じて適切な考慮を加える余地のあるものである
===引用終了===

上記の 1、2、5 からわかるように、技術文書に対して「常用漢字以外は絶対排除」という処理を適用することは、この表本来の趣旨に反しています。エージェントさんであれば「原則として常用漢字表に準拠」ぐらいの指示が適切でしょう。

個人的な修正方針

原則として常用漢字表に準拠していますが、状況に応じて読み手のために例外を設けています。では、私が実際に翻訳をどのように修正しているのか示します。

  • 読みやすさに影響しないのであれば修正します。常用外の用法、たとえば「即ち」「未だ」「し易い」「し難い」「益々」などは、容赦なく修正します。また、単発で重要性の低い常用外の漢字も修正します。
  • 理解の妨げになるような修正はしません。「同梱のネジ」を「同こんのネジ」にすることはありません。そのままにするか、「付属のネジ」のように書き換えます。「綴じた文書」も「とじた文書」にはしません。「綴」は印刷/製本業界で広く許容されている常用外漢字です。
  • 法的な概念を持つ言葉は修正しません。たとえば「瑕疵」はそのままにします。その他の文脈では「瑕疵 (かし)」「不具合」「欠陥」にするかなぁ。でも、「かし」にすることは、まずありません。

読み手を第一に考える必要があります。クライアントさんとよく相談して判断してください。申し送りに含める方法もあります。常用外を使用して読みやすくなるなら、あっさりと受け入れると思います。

企業側の対応例

常用漢字表に従うことをスタイルガイドに明記している某 IT 企業のサイトで、「脆弱性」と「ぜい弱性」、「梱包」と「こん包」を検索してみました。

脆弱性: 47,700 件
ぜい弱性: 43 件
梱包: 697 件
こん包: 0 件

このように、常用漢字を指定している企業でも、臨機応変に対応しています。

まとめ

自分の場合は、常用外漢字を排除対象としてみるのではなく、高価な素材とみる方がしっくりきます。たとえばレアアースなんか、代替素材で同等以上の性能が出るのならどんどん切り替えると思います。逆に性能が落ちてしまうのであれば、慎重に考えてから判断しますよね。



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