翻訳メモリに関係していない方は読む必要がないと思います。
理想の案件の翻訳メモリとは:
頻繁にメインテナンスされている
前にも書きましたが、メモリをメインテナンスしないということは、翻訳者が見直しをしないのと同じです。なんのメインテナンスもされず、過去の誤訳やタイポ、古い UI、別の機種の UI が含まれている TM をみるとため息が出ます。だって、不正確な翻訳や間違った UI (ユーザーインターフェイスの表記) がマッチとして引っ張られてくるのですよ・・・。
なんでもかんでも放り込まない
現存するすべてのメモリをなんでもかんでも放り込めば、わずかに翻訳費用が低下するのは確かです。でも、新しく 100MB のメモリを追加で組み込んで、数千円程度の経費節減になるだけなら組み込まないほうがましです。他の処理で時間をとられるのでお勧めできません。
次の3つの組合わせ以外は組み込まないほうが良いと思います。
- 会社文書の基本メモリ (Contents、References、Introduction などに対する定訳、著作権表示、Legal Notice とかね)
- 同じ UI を使用している同一製品ラインのメモリ (XX シリーズのメモリとか)
- 該当製品そのもののメモリ (その製品の過去バージョンを含むメモリ)
これら以外を入れた場合にどうなるかというと・・・
- UI 表記の揺れに対する膨大な問い合わせ
- 箇条書き内の敬体と常体の混在に関する問い合わせ
- 数百行のクエリシート
- 「XXXのエラーが多いので以後はそちらで修正してください」とクエリシートに記入するキレた翻訳者
それと、明らかに品質に問題があるメモリは、それがソースクライアントの要望でも組み込みを拒否したほうがいいんじゃないかなぁ。
サイズは 100MB まで
前の項目とも関係しますが、1GB のメモリを送ってくるクライアントは何がしたいんでしょう? 正規表現の勉強のために Wikipedia の日本語ページすべてをダウンロードしたことがありますが 3GB でしたよ。それほどの量なんですよ。
巨大メモリで作業した翻訳者に何が起きるかというと・・・
- セグメントの処理がとても遅くなります。
- イラッとします。
- 品質が落ちます。
もちろん後処理にも影響します。
- ほぼ同一の見出しや文章に対して、言い回しが異なる 5 つの 90% マッチが表示されます。
- 翻訳者は好きなものに合わせます。
- 翻訳者間で翻訳表現が揺れまくります。
UI 参照メモリを提供しない
これは私の好みですので、同梱してくれたほうが良いと思う翻訳者もいるでしょう。
「UI はこのメモリを参照して翻訳してください」という案件の何がお気に召さないかというと、UI は1対1で対応した用語管理ソフトの形式でハンドオフする必要があると思うのですよ。完璧な UI 対訳があれば、不明 UI の問い合わせが激減します。自動で用語の管理も実行できます。
ところでエージェントがソースクライアントに UI 対訳表の提供を依頼したときに、「そういうのはない」とソースクライアントが返答するのは翻訳者にとっての七不思議のひとつです。別に未発表製品でもなく、日本語版が市場に出ているのにこう答えるんです。
「メモリ A を優先し、そこにない場合に限りメモリ B を採用」とか言わない
たぶん、翻訳メモリソフトでの作業経験がないと思われます。これがどんなに翻訳者に負担がかかるのかは、作業経験者でないとわからないと思います。基本的に、前述の 3 つのメモリを統合した単一メモリにします。
混乱の例を挙げると・・・
- セグメント 1 でメモリ A はヒットせず、メモリ B の 70% マッチがヒットします。
- 翻訳者は当然メモリ B を採用して翻訳し、セグメント 1 の対訳 1' がメモリに組み込まれます。
- ところがセグメント 2 では、メモリB に基づいた対訳 1' が 60% マッチし、メモリ A からの 70% マッチもヒットします。
- 両方のスタイルや UI が異なる場合、翻訳者は混乱します。
- 翻訳者は解決を棚上げして、クエリシートで報告します。
- 翻訳者はメモリソフトに小さく表示される「更新者名」をずーーーっと気にしながら作業を続けます。
- だんだんどうでもよくなります。
スタイルガイドと矛盾がない
上記すべてに関連しますね。これは基本的なことだと思いますが、スタイルガイドにまったく違反していないメモリはほとんど見たことがありません。
あとがき干し柿
繰り返しますが、これらをものともせず処理することも、翻訳者としてのアドバンテージになります。ですが、度を超えているときはコミュニケーションして解決したほうが良いと思います。
コーディネーターさんは別に翻訳者さんの敵ではないのです。妥当な意見には耳を傾けます。
ソースクライアントさんも別に敵ではありません。ただソースクライアントさんが良かれと思って行なっていることが、ワークフローの大きな負担になることもあります。
ま、コミュニケーションを良好に保てば解決できることばかりだと思います。
~(´ー`~) ヘロヘロヘロリン~
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