2010年11月18日木曜日

翻訳単価について書いてみた

ずーっとお付き合いさせていただいているエージェントは 1 社で、後は直取引でした。もちろん他のエージェントと関わったこともあります (潰れた会社もありますが)。あっそれと、最近単価の高い会社のトライアルに合格しました。えへへ。

関わったエージェントは少ないですが、昔の同僚のひとりが翻訳会社勤務。もうひとりは大手企業の翻訳依頼側にいるので色々と情報は入ってきます。

そして、ツイッター上で馬鹿な値下げを要求するソースクライアントの話を聞くにつけ、ここは書いておかないといけないと思いました。



翻訳者の罪

急激に単価の下がった案件は拒否するべきです。下限は技術系英和単価で 8 円/word ぐらいかな。常識的に考えて、技術翻訳一本で食べているプロフェッショナルはこれ以下の値段では受けないと思います (私は経験がありません)。信頼を得ると、上は 10 数円程度まで出してくれたりします。

翻訳者は、「暇だから小遣い稼ぎ」しているわけではありません。特殊技能を持つプロとして働いているんです。通常の処理量は、 2000~4000 word/day だと思います。技術系翻訳者の多くの人は、処理量 2000w/day で登録しているようです。このぐらいであれば、翻訳者も「並」の生活はできるんじゃないかな。どう考えても、8 円前後が限界でしょう。

その値段でフルタイム作業したら生活できないレベルの料金を拒否しないと、この価格低下傾向に弾みをつけることになります。

例外は、学習中の初心者に対するトレーニング込み翻訳料金とか、翻訳が好きでパートタイムでちょこちょこ翻訳する方ぐらいでしょうか。


翻訳エージェントの罪

ときどき 3 円未満で翻訳者を募集しているどうしようもない会社を見かけますが、そこにはフルタイムで翻訳しているプロは集まりません。だってフルタイムで働いたら生活が破綻しますから。そういうのは収入源が別にあって、パートタイムで小遣い稼ぎしている人しか集まらないと思います。

そういう覚悟も無しに、値下げ要求を簡単に受入れるべきではありません。

逆のパターンもあります。たとえば、新規開拓のため、いきなり他社の半額を打ち出してきた翻訳会社があったようです。ソースクライアント側はその価格でずっと行く気満々ですよ。後で値上げなんか簡単に受け入れてもらえません。


ソースクライアントの罪

翻訳会社だけが悪いわけではありません。ソースクライアントも悪いのです。製造業で言ったら合理化による値下げが限界に達し、今度は「原材料費以下にしろ」と言っているのと同じです。

製造業では自動化を推し進めれば、価格が1/10になることも珍しくありません。ですが翻訳に関しては、「翻訳者の生活を切り詰めさせろ」と言っているのと同じです。機械部品と翻訳のワークフローはまったく違います。

翻訳において原材料に相当するのは末端の翻訳者の生活なんです。そこには残念ながら自動化はありません。機械翻訳があるじゃないかというなら、社内でやれば? どうぞどうぞ。機械翻訳が使い物になるなら、そもそも発注するなよw


値下げ要求の原因と結末

こういったひんしゅくを買う値下げ要求の原因として、ソークラが値下げを達成したときに購買部が得られる膨大なインセンティブがあります。大企業 (特に外資系) はそんなものです。購買部門は値下げに対してインセンティブをもらい、品質管理部門は品質に関してインセンティブをもらうので値下げを受け入れたとしても品質の低下が許容されることはありません

翻訳会社だって社員の給料、社内 IT インフラ、オフィスの維持費、その他の消耗品費も出さなければいけないのです。限度を超えた値下げ要求をした場合には、翻訳者への支払いを減らすことになります。これでは優秀な翻訳者をつなぎとめておくことはできません。

最悪の場合、値下げを受け入れて品質が低下し、取引停止を突きつけられたり、再納品を要求されることになります (製造業でよくある罠です)。


コーディネーターさんの涙 (ちょっと同情します)

また、単価が低い案件は、翻訳者に対する翻訳依頼がしつこいことも特徴のひとつです。だって、他にも案件があるのに、速攻で「はい、やらせていただきます」なんて回答する熟練した翻訳者はいません。

コーディネーターさんの悔し涙が見えるようです。値下げを受け入れて、翻訳者の確保に四苦八苦し、できあがった宇宙語を社内で修正し、なんとか納品にこぎつけて、「なんだこれは」と言われるなんて、なんて拷問でしょう。踏んだり蹴ったり殺されたりですよ。


ちょっとフリーランスの防衛策を考えてみた


フリーランス翻訳者の防衛策

1. 単価が非常識に低い翻訳会社とは取引しない
2. 単価の低いソースクライアントの案件は弾く
3. 積極的にトライアルを受けて選択肢を広げる
4. フリーランスの横連携を強化して特定のソースクライアントおよび翻訳会社をいっせいに弾く


あんまりひどくなってきたら、4 を実行に移しますよ。なんてねw。私にはそんな力はありませんが、甚だしくなってきた場合は皆さん協力してくれるのではと期待してます。だって翻訳するより、知識不要のバイトをする方が単価が高いなんて受け入れられるはずがありません

ま、あんまり心配はしてないんですけどね。だって購買部門は「生かさず殺さず」が基本ですから。製造業の経験から「潰れてもいいから値段下げさせろ」という会社は必ずしっぺ返しをくらいます。

追記: 翻訳メモリ案件の単価についても書きました。もしよろしければ、「ファジーマッチレートについても書いてみた」もご覧ください。

重要な追記(2012/1/31): このページへのアクセスが多いので、少し補足したいと思います。この価格は、1名の翻訳者による単純な一次翻訳の最低価格であることに注意してください。負荷の高い案件 (UI 翻訳、医療関係の翻訳、特殊な知識を要求される翻訳、編集込みの翻訳など) は、この値段では作業できません。複数の翻訳者が関わり、編集や取りまとめを行う場合は 2 倍以上の単価が必要です (つまり翻訳会社に依頼する値段と同じになります)。

4 コメント:

ヨシダヒロコ さんのコメント...

よくぞ書いてくださいました。最近引き合いが来た仕事は、$0.10(8円)を提示したところ2件ぽしゃりました。単価のせいなのか、トライアルのせいなのか分かりませんが。

たらりらったりったらった さんのコメント...

ぱちぱちぱち!(拍手)

私も最初の単価交渉では英和10円/word以下を提示されることがほとんどです。でも、ねばればたいてい上乗せしてもらえてますねー。半数のエージェントからは連絡が途絶えますが、残りの半数からは継続して仕事の打診があるので、特に困ることはありません。

さすがにエージェント経由の仕事で和訳15円以上を要求するのは、特殊な分野や言語でない限り厳しいかもしれませんが、10円前半までなら交渉の余地はあると思いますね。

ちなみに、もし10円未満の単価を受け容れざるをえなくなったら、廃業する覚悟でいます。

新人さんも、遠慮せずどんどん値上げ交渉して欲しいと思いますね。

sagtran さんのコメント...

ヨシダさん、コメントありがとうございます。

それでいいのではと思います。数円の案件を受けて貧乏暇なしになるより、8円の案件を時々やって、残りは新規トライアルや自分の翻訳技術を磨くために使ったほうが良いと思います。

sagtran さんのコメント...

たらりらったりったらったさん、はじめまして。

そうですね。私の感覚と同じですね。やはりそのぐらいが妥当ですよね。

私も生活を切り詰めなければいけないような安い案件を受けるぐらいなら田舎に帰って田んぼ耕しますw