2011年4月6日水曜日

理系の思考と苦悩

理系に求められるのはデータ、その解析、そして結論です。今回の事態でいろんな場所で感情的な混乱が見られますが、それとは正反対の位置を堅持するのが工学に携わるものの立場です。

そう、「なんとなく怖い」とか言うと馬鹿にされる世界です。

基本的にデータから得られる結論を相手に示すことになるんですが、動揺している人にデータを示すことで、感情を逆なでしてしまうこともあります。そのため、匿名のネットで混乱をおさめようとしてデータを示して「大丈夫」と発言すると攻撃されるのです。

別に私は原発推進派でもないのに、掲示板でデータに基づいたことを言うと「東電の社員」とか言われる始末です。パニックになっている人を落ち着かせようとすると「また東電の社員がきたよ」と感情で反論されとガックリです。別に東電の擁護をしているのではなくて、データを提供しただけですよ?

色々なスパムを受け続けながらも、理性あるデータを提供し続けている物理学者を何人か見つけましたが、本当に感心しています。


それでもまぁ、私が気になった項目に対する意見を少し書き残しておくのは意味があると思います。理系の考え方 (というか私の考え方といったほうがいいか) を少しでもわかってもらえれば幸いです。



◆ 「で、放射線のいったい何が体に悪いのよ」に対する意見 (回答?)

えーと、まー、基本的に空間を伝わる性質を持つものが (光とか電波とかひっくるめて) 放射線で、それらを放射するものが放射性物質です。放射能とは放射性物質を放出する能力のことです。

放射線がただ体を通過していくなら何の問題もありません。通過する際に体内の酸素の電子を弾き飛ばします。その結果活性酸素が発生し、それが大量な場合は細胞を傷つけることになります (まぁ正確に言うと酸化物が生成されてるんですが)。

日焼けは軽症の放射線やけどです。日焼けって太陽の熱で焼けているわけじゃありません。紫外線も単に波長が長めなだけで、放射線として定義できます。放射線で活性酸素が増えて細胞の酸化が進み、燃焼 (火傷) しているわけです。ただ、波長が長いので、簡単に通過することはできず、影響は肌の表面付近に集中します。

そして放射線の波長が短くなるにつれて透過力が高まり、体の内部に影響を与えることになります。

ところで、物理学者も医者も致死線量や期間を断言できないことにいらついている人がいますが、元気な人と、新陳代謝が落ちている不健康な人とではまったく影響が異なるからなんです。インフルエンザで必ず全員死ぬかどうかを判定しろと言っていると同じです。感染症と同じで、弱い人が影響を受けます。ぶっちゃけ、健康で栄養素をしっかり採取していて運動もしている人はかなりの放射線に耐えることができます。

人間は、長い間 (原子力が誕生する前も) 放射線と共存してきました。たとえばバナナなどはガイガーカウンターに反応します。これは成分中のカリウムの一定量が放射性同位元素であるためです。そう、宇宙の誕生やら星の爆発やらは核爆発のようなものだったので、半減期が長いものはそのまま残っているんです。

その必須ミネラルのカリウムを摂取するごとに人間はずーっと被曝してきましたし、体内の同位元素から今も被曝し続けています。その程度であれば人間の体は対応してあっという間に再生できるので、バナナを10本食っても死ぬことはありません。放射線火傷を起こすこともありません。単なる食べ過ぎで腹を壊す事はあるかもしれませんが。

生き抜きたいなら通常の健康維持が一番大切です。
あ、別に放射能が安全だと言っているわけではないです。念のため。


◆ 「入浴剤の投入かよw ワロタ。ばかじゃねーの」に対する意見

もういろんなところで随分とダメージを受けていたので書き込みませんでした。でも、着色に関して非常に筋の通った方法なんです。まず、入浴剤は人の肌に触れるものとして販売され、毎日のように環境に排出されているので、環境インパクトがないか非常に少ないと考えられます。また経口急性毒性試験も済んでいます。他の塗料などを使うよりずっと安全ですし、簡単に大量に手に入り、大量に着色できます。

また東電が「入浴剤」と言っても、実際に販売されている入浴剤を使用したものではない可能性があります。つまり硫酸カルシウム、酸化チタン、黄色2号など、オバチャンたちが頭をかかえるような成分名を発表するより説明が簡単です。

むしろ、環境インパクトを考えていないペンキなどを使用していたら、私は東電の技術者を罵ったと思います (まぁ、放射能が漏れているときにどうこういってもしょうがありませんが)。


◆ 「放射能なんか放出して他の国に補償をもとめられるだろーが」に対する意見

えーと、現在の環境中の人工放射能のほぼ全部は核実験国によるものです。少なくとも核兵器保有国が日本に何らかの補償を求めることはありません。排出した放射性物質の量に応じて補償をし始めたらアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国、その他から莫大な補償金を得ることができます。でも政府が無知だと補償に応じるかもしれません。

あと、アメリカの西海岸の人が「ここは危険だ」とかCNNの掲示板に書いていましたが、アホ過ぎて笑ってしまいました。ビキニ環礁で60数発の核実験やっておいて何を言ってるんでしょう。現在の量で西海岸で健康被害が発生するのなら、ビキニ環礁の水中核実験で太平洋沿岸全域が壊滅してますよ・・・。日本人はその頃も、あんたらが垂れ流していた放射性物質入りの魚食ってたんですよ・・・。


◆ 「1億倍の放射能が検出されたんだって。日本オワタ」に対する意見

ていうか、この報道を受け入れて納得して怖いと思った時点で理系失格です。ツイッターに投稿してもう削除してしまいましたが、書いておきます。

拡散を前提とした環境インパクトを語るときに1リットルあたりに何倍の放射能があるかなんて関係ありません。こういう時にセンセーショナルな数値だけを提示するメディアは悪質です。テレビないから知らないけど、「1億倍」はメディア側で「これはウケる」とか換算して記事にしたんでしょうか。1億倍の放射能が1リットルと1000倍の放射能を含む水が10万リットル (100トンかな?) では、環境インパクトは同じです。総量がわからないと意味がありません。

他の要因として、以前の方策で流量が少し下がっている場合、滞留時間が長いので放射能の値は増加すると思われます。だから状況が好転してるのか悪化しているのか科学者は判断できません。科学者にとっては「ゴミデータ」で、一般の人には心労を増やすデマに近いデータでしかありません。まぁ、今の時点でということですが。


◆ 「でいったい今の状況はどうなのよ」に対する意見

国連の UNSCEAR 2000 Report 読んでください。英語ですけど、一番信頼できるデータ資料です。このレポートの過去の放射性降下物の各グラフと現在の状況を比較してください。
正直、各国がバカスカ核実験やっていた時、つまり私が生まれた頃より全然ましです。

「そんなの信頼できねー」という人は何なら信じるんでしょうか・・・。過去の被害統計に関して「データには現れていない死者が数千万人いる」とかいう団体がいると耳にしましたが、それって私が「放射能で寿命が延びた人が数千万人いる (今思いついた嘘です)」とデータなしで言うのと同じじゃないでしょうか・・・。関係ないですけど、日本は世界一の医療放射線被曝国です。


◆ 「東電の社員でしょwww」に対する私の意見 (ムカつく)

違いますwww。関わったこともありません。なんでこう、匿名だと人は攻撃的になるんでしょ。

自動車関連企業の研究開発職、医療検査企業、国際物流企業、某省の情報公開室、日本のIT企業、翻訳業の流れです。あ、キーパンチャーもやってたわ。派遣もやったしバイトもした。なんかいろいろやった。浅く広く知識が増えた。

私の立場は・・・核兵器は絶対反対。原発は他の選択肢が可能になったら停止していくべき。今すぐ全部止めろと言っている人は感情的すぎて同意できません。


なにか選択肢があるかなぁ、とキチンと考えると・・・


水力発電: 今回のことで進めやすくなると思いますが、絶対反対する人が出てくると思います。

太陽光発電: パネルの効率を上げればなんとかなる気もしますが、エネルギー保存の法則もあるので最後は面積勝負になります。広大な設備が必要です。あと、昼にだけ発電できてもしょうがないです。

風力発電; そりゃあ理論的には全国の電気をまかなえますよ。ただ私の知っている風車は、1本で数世帯から数十世帯しか対応できません。企業による消費も考えて数千万本を建てる必要があると思いますが、維持していくことはできるのでしょうか・・・。まぁ、私の知らない高効率の風車があれば可能かもしれません。あと、いつも暴風が吹き荒れている地域とかがあれば。(追記: 故郷で稼働している風車で計算していましたが、1基で千世帯分を発電可能な風車があるということです。本数を1桁ぐらい減らすことができるかもしれません)

海洋温度差発電: インドは1MWの試験設備を稼動させているようです。日本が誇るウエハラサイクルもあります。日本では沖ノ鳥島が最適なようで、都知事が計画を立てていますが、中国ともめている場所なので実験は進んでいません。

地熱発電: 富士電機システムズが世界シェア1位です。少し前に140MWの設備をニュージーランドに納入したようです。良い場所があればかなり希望が持てるんじゃないのかな。

スターリングエンジン: うーん。これも温度差機関ですが、大規模は難しいんじゃないかな・・・。



まぁ、原子力をなんとか制御してきた技術があるんだから、知恵をしぼって何か別の発電技術が開発されるような気もします。


で、私は明日も普通の生活を継続するのでしタメゴロー。

6 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

言いたいことは良く分かるんですが、まぁ、落ち着いてください。
理系的には地震も津波も原発もまったく心配ない状況だと私は思いますけどね。
ちなみに、

> 国連の UNSCEAR 2000 Report 読んでください。英語ですけど、一番信頼できるデータ資料。

を読むと、どのような「でいったい今の状況はどうなのよ」への回答になるのでしょうか。
ここで一言で結論を述べられるようでないと、論理的思考ができていないと思われても仕方がないですよ。

匿名 さんのコメント...

コメント拒否なのか。偉そうなこと言って読んでないんだなw

sagtran さんのコメント...

どういう仕組かわかりませんけど、スパムトレイに振り分けられてたんですよw

あー、たしかにつなぎが変ですね。そのレポートの核実験による降下物のグラフと現在の状況の比較をしたほうが良かったですね。

匿名 さんのコメント...

太陽光発電は、一箇所に広大な面積のパネルを確保しても保守面等でメリットはなく、各家庭の屋根の遊んでいる面積を埋めていく方が効率がいいそうです。

sagtran さんのコメント...

4つめのコメントしていただいた方、ありがとうございます。

なるほど、私はアマチュアなのでデータを集めて書くしかなかったんですが、保守効率などは実際の研究に携わっている方の意見に従うのが一番近道なのでしょうね。

sagtran さんのコメント...

色々紹介していただいて、私のような素人のブログのアクセス数が上がっていますが、専門家のサイトを紹介したほうがいいですよ。とても正確な答えです。皆さんの色々なQAに専門家が冷静に答えているサイトです→ http://radi-info.com/